彼らしい無茶と誇り高さを頼もしく思うと同時に、ジュンユンはひとつの決意を固めていた。
秋葉原にあるリベレイターズ東京支部へ赴く。そこでは、まだかすかに足を引きずった感のあるメガキンをはじめ、シェアハウスに揃っていた他のメンバーたちが少し憂鬱な顔で、アコライツおよび鶴龍ジャボへの対策を話しているところだった。
「それなら安心してください」
「ジュンユンか! ここに来るなんて珍しいじゃないか」
話に割って入ると、メガキンが驚きと喜びを見せた。ジュンユンは一度微笑んでから、表情をぐっと引き締めた。
「あの火事の中でのこと聞きました。力になれなかったの残念です」
渋谷の地下闘技場から離脱を図った際、自身はメンバーたちとは別行動をしていた。リリンたちが拘束されたことや、彼女らを人質を取られたメガキンたちが、ショーのために悪魔を使ったバトルを強要されたこと。そして殻斗が逃走のために起こした火災の中で起こった出来事は、しばらくしてから聞かされたことだった。
全員が被った危険も、メガキンが負った入院するほどの傷も、もしかすると自分がいたなら回避できたかもしれない――。仕方のない状況だったとは言え、どうしても悔しいその思いを堪えることはできなかった。
「これからは私も一緒にいて、みんなを守ります!」
だから、もっとメンバーと近い場所でともに戦おうと決めて、ここへ来たのだ。
「そうか、そいつは…………ありがたいな」
その決意を受け止めたメガキンは、なぜか沈痛な面持ちを浮かべた。口元の微笑みはなんとも自嘲気味で、声色は感情を抑え込んでいるような、彼らしからぬ雰囲気をまとっている。
そういえば、と、ジュンユンは両腕を組んだ。
らしくないのは、メガキンだけではない。いつも賑やかなリベレイターズの面々にしてはやけに口数が少なく、頼りになるリーダーが退院してきたというわりには空気が重たい。鶴龍ジャボへの敗北感だけではない、もっと――もっと深刻な哀しみが、このアジトに立ち込めている。
「……どうかしましたか?」
ぐるりと部屋を見渡す。メガキン以外のリベレイターズメンバーが無事であるという報せは受けていたが、その全員がジュンユンからの視線を微妙に逸らした。
いや――違う。『全員』ではない。一人、足りていない。
渋谷で会った彼女がいない。ここにいると聞いていたのに、彼女だけが、この場にいなかった。
「メガキン、あの新人さんはどこに?」
静かに尋ねる。その問いかけは、ついにメガキンの視線をも逸らさせたのだった。
ルーキーに割り振られた部屋へ入室する。
結論から言えば、彼女は渋谷の事件の少し後から昏睡状態に陥っていた。
本人が眠っている以上、詳しいことは誰にもわからないが、ただ、その前日にアジト内のショップに立ち寄っていたらしい。ショップ店員兼執事の福本は、使い方を誤れば危険な薬を二つ買っていったと話した。それは、部分的、擬似的に記憶喪失を起こさせることで、ダウンローダーとしての経験を一度リセットし、スキルを取捨選択するために使用するのだという。一つは他の人に頼まれたと言っていたらしいが、彼女はあろうことか――状況的に考えて、その薬を二つ同時に服用したようだった。用量を超えての服用が何を引き起こすかは、福本ですらわからないと首を横に振った。
「貴女は、強くなりたかったのですね」
ベッドサイドの椅子に座り、つぶやく。
あまり安らかとは言いがたい顔で眠る彼女は、何かの夢でも見ているのか、まつ毛が薄く濡れているように見えた。確かめようと指を伸ばすと、指先はやはり冷たい感触を捉える。
胸がぎしりと軋む。
きっと彼女は――自分と同じ理由で、強さを求めたのだ。
ジュンユン自身は、遣る瀬ない気持ちを決意に変えることができた。だが、彼女の思いにはあてどがなかったのだろう。その結果、危険な薬を求め、覚めない夢を見続けることとなった。
「早く起きましょう、みんなとても待ってます」
渋谷で初めて出会ったとき、綺麗な眼をしていると、素直に思った。
悪魔を見守るとき、戦況を判断するとき、仲間と過ごすとき。彼女は、淀みなくまっすぐに前を向いていた。それだけで、ダウンローダーとしての資質も、仲間としての人柄も、疑いようのないものだと信じられた。
だから、自身の決意はもちろん大前提ではあったが、それだけでなく、彼女と会うことや、彼女とともに戦えることを楽しみにしていたのも正直な想いだったのだ。
「それから、私も」
野性的な指を彼女の目尻へ這わせ、ひやりとした涙の跡を温める。今は強く閉ざされてしまったそのアーモンドアイが、再び世界を、自身を眼差すことを願って。
「……私も、貴女に、会いたい」
顔から指を離し、胸元でぐっと拳を握り締める。
この拳は今度こそ仲間を――彼女を守るのだと、決意を新たに立ち上がり、部屋を静かに後にした。