「――っていう感じなんですけど」
「へえ、そうかい」
 にべもない、とは、まさにこの対応を言うのだろう。
 どういうわけだかセイバーのサーヴァントであるにも関わらず、その身に備えた陣地作成スキルによって部屋の内装がまるっきり鍛冶場に変わってしまっている千子村正のマイルーム。がここに押しかけたのが、約18分前のことである。
 まず鉄を打つ村正の手が止まるのを待って6分。手を止めたことに対しての小言を聞くのに5分。召喚時にチョコ菓子の知識は得られなかったらしく、その概念を説明すること3分。それからゲームの解説をするのに4分。それだけの時間をかけて、この素っ気ない返事である。
 しかしとしてはここで心を折るわけにはいかない。今日は、11月11日なのだ。親しい二人が顔を突き合わせる『あのゲーム』を行うことのできる、あの11月11日なのである。
「……だ、だから、その、あのう」
「だから、なんだってンだ」
「ええっと、だから……あの」
「ハッキリしねえな、さっさと言いやがれ!」
 威勢のいい村正に一喝され、は心を決める。深呼吸をひとつした後、拳をぎゅっと握り締め、背筋を伸ばし、目を見開くと、一歩ずいっと村正に近寄った。
「わ、私と――ポッキーゲームをしてください!」


「まったく……こんなことをさせられるたあ、人生わかんねえモンだな」
 渋々、とは、まさにこの態度を言うのだろう。
 武士にも男にも女にも、無論にだって二言は――まあたぶん無い。口から出た頼みごとがどれだけ恥ずかしいものでも、一度本人を前にして言ってしまった以上は取り消すわけにもいかないのだ。
 女のその真剣な頼みを、人情家の節のある――“器”の影響もあるのだろう――村正には断りきることができなかったらしい。
 なにはともあれ、そうして約束を取り付けたはすぐに苺のポッキーを自室から持って来たのだが、この実に面倒臭そうな態度である。しかしここまで事を進めたのだ、ここで引き下がるわけにはいかない。
 深い深い息を吐くと、小さく震える手でポッキーの箱と内袋を開封し、ハート型でやけに可愛らしいポッキーを一本取り出す。ここでもう一回深呼吸。唇の中央にピンク色のポッキーを咥えて、村正の方に向ける。だが、顔など見れるはずもなく目は強くつぶった。
 村正は一度ガシガシと頭を掻いてを眺め、ややあってつまらなさそうにしていた表情を、ふ、と和らげた。
 力強く閉じた瞼と、唇に挟まれたポッキーが、ふるふると小刻みに動いていた。恥ずかしさと緊張で真っ赤になりながら、それでも覚悟を決めて男に唇を差し出そうというのだ。そんな女を待たせるのは、気が引ける。
 それに――漂う苺の甘い香りと、突き出された唇は、ただ素直に、美味しそうだと思った。

「……ッ!」
 名を呼ばれ、は薄目を開ける。ついに始まるのだろうかと覚悟を決める――暇すら、なかった。
 開いた目が村正を確認したときには、既に彼の顔は眼前。パキ、と小気味良く菓子の折れる音がして、咥えていたポッキーが短くなったと思ったら、唇には、違う温度の唇が触れていた。
「ご馳走さん。なかなか旨えじゃねェか」
 の口にあったポッキーを奪って離れていく唇が、悪戯な色を乗せて微笑む。手には折られた長めのポッキーがあって、これ見よがしにゆっくりと――今まさに口付けたばかりの唇に吸い込まれていった。
 突然の出来事に言葉を失ったまま一層顔を紅潮させている様子を見るや、村正は更に強気な笑顔を浮かべる。
「気に食わねえンなら、今度はオレがこいつを咥えて待っててやろうじゃねェか」
 言って、一本のポッキーを取り出し、意地の悪い顔で咥える。
「――そら、おまえさんの番だ」
 それが、どれほど魅惑的に映ったか。
 は言葉を発せないまま村正を見つめ、かすかに唇を開き、吸い寄せられるようにそれを食べ始めた。

Pocky xx :2017/11/12
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