品行方正、容姿端麗、帰国子女。あらゆる要素を兼ね備えた桐島英理子という少女は、喩えるならば真っ白なレースカーテンのようなものだった。肌触りのいい良質な糸、陽光を透かす繊細な意匠、細やかに施された芸術的な刺繍。それはたったひとつの染みさえ許されぬ清白――。
だが、理解なき者から言わせれば『染み』となる要因が、彼女にはあった。
「魔女みたい、ねえ。アンタそんなこと言われてたのかい」
心無い人間の姿でも思い浮かべたのだろう、黛ゆきのはいささか怒りを滲ませている。昔から卑怯なやり方や筋の通らぬことを嫌う彼女らしい姿を、当の桐島は上品に微笑みながら眺めた。自分のことを、自分以上に腹を立ててくれる仲間がいるというのは、とても幸福なことだ。
「もう大昔の話ですわ。Occultismを愛するだけで
幼少期から、彼女はオカルトの類に傾倒していた。
多くの大人たちは、そんな彼女を異様なものを見るような目で見た。
桐島英理子という少女は聡く、他者からの眼差しや評価に敏感であったが、誰に忌避されようとも決してそのオカルトだけは捨てようとしなかった。むしろ、自身に求められる理想から逃れるようにのめり込んでいった。他人はそれを、美しい見た目への皮肉も込めて、彼女は魔女のようだ――、と染みの広がりを疎むかのごとく揶揄したのだった。
「だが」
――だが、そう。
「桐島のおかげで、悪魔との戦いが楽になったことは一度や二度ではない。魔女とは言うが、俺たちにとっては優れた知識の泉だった」
「そうそう。もう今さらオカルトマニアじゃないエリーなんて想像つかないし、絶対物足りないよなー」
腕を組んだ南条圭の隣で、上杉秀彦がへらりと笑う。
「ほんとほんと! エリーってば、いつもビシッとキメてるのに、オカルトの話になると周りが見えなくなるようなギャップが可愛いんだよ」
最後に園村麻希がきらきらとした瞳で桐島を見つめ、少女のようにはしゃいだ。隣に座っていた城戸玲司は黙っているが、異論は無さそうだった。
彼らこそが、桐島英理子の『染み』を個性だと認めてくれた学生時代の大事な仲間たちだ。彼らに出会い、ありのままの自分を受け入れてもらった桐島は、もう誰かの目を気にすることなどない。
――そう。彼女は彼女らしく、まっすぐに胸を張って、飾らずに歩いていける。
「So, Really? では、Witchらしく新しく仕入れたばかりの怖いお話でもしてさしあげますわ!」
白く長い人差し指を一本、唇に置いてクスクスと笑う。桐島の美しいその姿は確かに、物語から飛び出してきた魔女のような艶やかさをまとっていたのだった。
(2018/02/15)
魔女に堕ちかけた少女
魔女というのなら、彼女ではなく、わたしのことだろう。
久しぶりに級友たちと会った翌日。普段と同じように仕事に出かけ、高い天井を仰ぎながら昨晩のことを思い返していた。
桐島英理子は、聖エルミン学園でできた仲間の中でも、ひときわ特別な親友だった。
同じ人を好きになった。同じ日に長かった髪を切った。同じ事件に巻き込まれ――否、巻き込んでしまった。
だが、その事件の中でともに笑い、ともに泣き、ともに戦い、ともに自分と向き合い、悲しみを乗り越えた。別の道を歩むことになったが、それぞれの夢を目指す気持ちは同じだった。
そんな彼女は、かつて見た目や趣味が原因で魔女のようだと揶揄されたと話した。
今となっては光栄だ、肯定も否定もできずにいた自分はもうすっかり過去にできた、仲間のおかげで自分を認めてあげられた、と。そう笑った彼女は――心の底から、自分の瞳に美しく映った。
だが、そんな彼女が魔女だというのなら、昔のわたしは、もっともっと醜い魔女だっただろう。
誰にも見つからないようにひっそりと森の奥に棲む魔女みたいに、自分を隠していた。自分を現実から隠して、妄想に逃げて、その結果、あの恐ろしい事件を生んだ。
でも、だからこそ、わたしは――
「あら、こんにちは」
柊サイコセラピーの扉が遠慮がちに開かれ、店主である黎子が瓶底眼鏡の奥で柔らかく微笑んだ。
自分自身が嫌になった、周囲とうまくいかない、生きることに疲れた。そんな様々な理由を抱えて店を訪れる患者は、絶えることがない。
天を仰いでいた眼差しを戻して、前を向き、穏やかな笑みを浮かべる。
自身の醜さを知り、向き合い、仲間とともに受け入れることができたからこそ、わたしは――苦しむ人々の救いになり得ると、そう信じている。
「――はじめまして、セラピストの見習いをしている園村麻希です。あなたのお話、わたしにも聞かせてもらえたら嬉しいな」
(2018/02/16)