カロリーの塊のようなハンバーガー。摂取量など配慮されていない塩加減のポテト。薬品の臭いがする発泡コップ。質の悪い水で作られた氷。果汁を微塵も感じさせないほど濃度の薄いジュース――実にファーストフード店らしいセットである。
 それらを、ファーストフード店には似つかわしくない美しい姿勢で食べた南条は、やや硬い紙ナプキンで丁寧に口元を拭き、食事を終えた。
「おフランスの料理食べてんじゃねーんだぞ、南条」
 稲葉に揶揄され、「む……」と唇を尖らせる。
「ハンバーガーショップの作法というのは、俺にはまだ馴染みが薄くてだな……」
「作法って、オメーはホントによォ……」
「あの事件が起こらなければ、このMemberで寄り道だなんてなかったでしょうし、Keiがここに来ることもきっとなかったですわね」
 くすくすと笑いながら桐島が言う。あの事件――セベク・スキャンダルの後、南条は下校時にこうして仲間たちと他愛のない時間を過ごすようになった。
 これまで学友との交流など不要なものとしてきた南条にとって、放課後の寄り道は未知のことばかりで、驚くことも多かった。
 コンビニで売られている食品は、体に悪そうなものばかりだ。だが、寒くなりかけた時期に食べた肉まんは美味だった。同時期に食べたあんまんは口を火傷するほど熱く、狼狽した自分を見て、販売した黛が思わず笑っていた。
 自動販売機の飲み物はスチールの香りが鼻についたが、コーンスープは温かくてほの甘く、悪くない。最後までコーンの粒を食べるのは至難の業であり、あれは歴戦の強者だけが指を使わずに食べられるのだと上杉が言っていた。指は怪我をするから入れてはいけない、とも。
 情操教育として賭け事に関する経験こそあったが、ゲームセンター『JUDGMENT1999』は心底うるさいばかりで、遊んだ日は帰宅後になっても頭痛がする。だが、あの安物のメダルでやるメダル落としゲームは存外むきになってしまう。城戸がコインロール用として持っていたメダルを一枚入れただけで、大量のメダルを獲得したのを目の当たりにしたときには感服したものだ。
 綾瀬に無理矢理プリント倶楽部のカーテン内へ突っ込まれ、仲間全員で撮ったプリクラは画質が悪く、南条家に飾ってある家族写真とは雲泥の差があった。だが、これまた綾瀬に無理矢理貼られてしまった生徒手帳の裏表紙にある仲間の顔は、家族写真を見るよりも胸が温かくなる。なぜ悪魔であるジャックフロストがマスコットキャラなのかという謎は、未だに解明できないが。
 そして、南条が事件後に初めて仲間たちとこのピースダイナーへ訪れたとき。レジに行き、南条が何気なく全員分の支払いをしようとして、稲葉にひどく怒られたことがあった。
「わたしたちトモダチでしょ? じゃあ、理由もないのに奢ったりしちゃダメだよ、南条くん」
 なぜ稲葉が突然激昂したのかがわからずにいると、園村が説明した。
「そーだぜ、オレらはダチなんだから対等じゃねーとダメなんだ。次ンなことしたら許さねーからな!」
 ふんぞり返って見せた稲葉は、次の瞬間にはもうシェイクをつけるかという店員のセールストークに本気で悩んでいる。
「対等、か……」
 この放課後の課外授業は、これまで生きてきた自分の世界の狭さを知らされてばかりだった。
 上下関係のない絆、自分に対して本気でぶつかってくれるかつての執事以外の存在。これまでの価値観ではわからなかったこと、見えなかったこと、知らなかったことが、この時間には詰まっている。
 何より――どんな物事も、信頼できる仲間となら楽しめる、ということだ。
 南条は飲み終えたジュースにもう一度口をつけてみる。プラスチックのストローからは、氷が溶けてほぼ水となったジュースが上がってきて、最後に少しだけ濁った品のない音が響いた。

アフタースクール :2019/09/21
異聞録発売23周年記念に!
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