デヴァ・システムは、融合していた園村麻希の心の闇と和解すると同時に機能を停止した。システムの影響で異界化していた御影総合病院も元に戻り、集中治療室ごと消息を絶っていた彼女も無事に帰還。その後、誰もが目を見張るほどの速度で、容態は快方へ向かっている。このままならば、来年度には学園生活に戻れるだろう、というのが、大方の医療関係者の見解だった。
だが、それはあくまでも、医師がこれまでの経過から慎重に導いた結論だ。病の原因が消えたことを知っている当の本人からすれば、「今すぐにでも出られるのに」というのが、正直な気持ちだった。
無論、セベク・スキャンダルからはまだ一ヶ月が経った程度だ。心身を休めることが大事だということを、今の彼女はしっかりと弁えている。
それでも、世間が師走に入ると、ほんの少しだけ外を羨んでしまう。
だからせめて、クリスマスツリーをエルミンのみんなと見られたらなあ、なんて、ささやかな願いを囁いて――その願いを、聞き逃さなかったのは、誰よりも多く彼女を見舞っていた稲葉正男だった。
すぐに、どうにかなんねーかなと、仲間たちに伝える。すると、眼鏡を指で持ち上げながら、南条圭が「不可能ではない」と、遠回しな言い方をしながらうなずいた。
毎年、南条家の中庭に飾られる特注品の大型ツリーを、慰問の体で病院に持ち込もうというのだ。トラックの手配もうちでする、と、南条が日頃とあまり変わらぬ表情で続けたのを皮切りに、『サンタクロース計画』は始まった。
病院の許可を取り、日にちや時間を決める。病院に飾るのであれば、入院している患者たちの喜ぶものにしなくてはならない。ツリーの配置場所、窓からの見え方を意識した飾りつけなどにもできるだけ留意した。
そうやって、ひとつずつ段取りを組んでいく途中、桐島英理子が真剣な顔で仲間に言い募った。
園村麻希を驚かせるのではなく、一緒に参加させてあげたい。一緒にクリスマスツリーを作りたい、と。
体調を心配する声も上がる中で、意外なことに、桐島に賛同したのは城戸玲司だった。言葉数こそ少なかったが、「仲間なら一緒にやりゃあいいだろ」というストレートな一言は、仲間たちの心を強く揺さぶった。
そして――『サンタクロース計画』決行当日、仲間や院内の関係者数名の手引きによって、園村は病室を抜け出したのだった。
深夜、飾りつけをしながら、彼女は冷えた指先に息を吹きかけた。白い吐息が、ひとときの温もりを指に与え、すぐに消えていく。しかし、心は何よりも温かかった。
彼女の想い人が、クリスマスツリーのてっぺんに大きな星を飾りつけ終える。
試しに電気つけてみよーぜとはしゃぐ上杉秀彦と、バレたらどうするつもりだいと眉をひそめる黛ゆきのが言い合っている間に、綾瀬優香が笑いながらスイッチを入れる。
暗闇にクリスマスツリーが浮かび上がり、すぐに消えた。
鼻の頭がツンとする。
寒さのせいだけではない。すぐに消えたツリーの明かりが寂しかったわけでもない。ただ、自分は、こんなにも綺麗なものを壊そうとしていたんだ、という後悔と、それを守ることができた誇らしさで、胸がぎゅっと締めつけられたのだった。
生きててよかった、と――心の底から呟くと、ぽろ、と涙の粒が落ちる。
けれど、夢のようなきらめきと、胸が温かくなるような輝きを秘めたその一瞬の美しさは、園村のまぶたの裏にずっと焼きついていた。