収録を終えて、楽屋から裏口へ。裏口から出た駐車場の外では、ファンが出待ちをしていた。
事務所の車に乗り込んだ上杉は、スモークを貼った窓ガラスの内側でひそやかにため息を吐いた。女性マネージャーがエンジンをかけ、駐車場の出入り口のところで窓を開けたので、すれ違いざまにファンへ向かって手を振った。
「最近、またファンの子増えたんじゃない?」
嬉しそうなマネージャーの言葉には、そッスかね、と軽い返事を投げるだけに留めた。
聖エルミン学園を卒業後、上杉秀彦は芸能界へ入った。学生時代と同じく《ブラウン》の愛称で親しまれる彼の活躍は最近特にめざましく、テレビでも雑誌でも引っ張りだこだ。
「あんな親父ギャグのどこが面白いんだかねえ」とは、今も親しくしている元同級生であるカメラマン見習いの言葉だが、ともあれ、最近の上杉はとにかく多忙であった。仕事そのものには慣れてきたが、不定期な仕事のサイクルには、いつになっても慣れない。
疲弊しきった顔で帰宅すると、住所を公開していないにも関わらず、いくつかの封筒がポストに入っている。 ファンレターは嬉しいし、ありがたいが、忙しい最中ではあまりじっくりと読む暇がなかった。トランプをシャッフルするように封筒を眺めていくと、その中に、海外からのポストカードが紛れ込んでいた。
それを見た途端、表情がみるみる華やいでいく。
写真に写る人物は懐かしく、その笑顔は、上杉の肩を軽く叩いて励ましてくれていた学生時代のそれと同じだったのだ。
――行こう、上杉。
疲れたとき、めげそうなとき、いつも彼がさりげなく背中を教えてくれていたことを思い出す。あの頃の記憶が一気に蘇り、目頭にかすかな熱を持った。
「ほら、やっぱりファンの子、増えてきてる」
翌朝、移動の車中で、マネージャーが窓の外を見ながら呟く。上杉は、そうッスね、と力強くうなずき、窓から顔を覗かせて大きく手を振った。
「おれ様、もっと頑張っちゃうから! 応援ヨロシクぅ~!!」
外から聞こえた黄色い悲鳴に、上杉は満足そうに笑った。