10日後に死ぬ老執事|01


 相手が通常の人間であれば、遅れを取ることはなかっただろう。
 常に主の傍に控えている身として、執事というばかりでなく警備の役割も担っているのだ。ゆえに、武芸のたしなみはあった。だが、霊安室から出てきた輩たちに丸腰で対するには、老体では限界があった。唸り声とともに何度でも立ち上がってくる屍を、倒し切る術が見つからない。火でもあれば、と考えるが、ここは病院のラウンジルーム。そう都合よくはいかず、また、後ろの看護婦を庇いながらでは立ち回りも限られてくる。
 普段は温厚に細められている瞳が、長く白い眉に隠れて鋭く開かれた。
 老執事は、徐々に狭まってくる屍たちとの間合いの中、何よりも大事な少年のことを案じていた。

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