10日後に死ぬ老執事|10+『1』
手渡されたその瞬間は、まさかと思った。誰しもが持っているものではないにせよ、この世に一つしか実在しないというような希少価値の高いものでもない。だが、それを手のひらへ乗せた途端、理解できた。
それには、厳しくも優しく、いつもいつでも誰よりも注ぎ続けてくれた深い愛情が宿っていた。
持ち主であった彼は、血の繋がりがなくとも家族であり、親子であり、生きる道に光を照らし続けてくれる存在だった。そして、彼の教えや愛情は、これからもずっと自分の心に生き続けていくのだ。
胸ポケットに入っているのは、ひびの走ったべっ甲縁の眼鏡。愛おしさの宿るその場所にそっと手を添えて、一歩、進む。
――ピアノの音色は、すぐそこに。